ボツリヌス毒素
膀胱壁内注入療法

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法とは?

ボツリヌス菌によって産生されるA型ボツリヌス毒素(ボトックス®)を膀胱壁に直接注射することで膀胱の筋肉を弛緩(緩める)させる働きがあります。
過活動膀胱では無抑制性収縮(我慢が効かずに膀胱の筋肉が収縮する)によって頻尿や切迫性尿失禁が起こるため、膀胱を弛緩させることで症状を緩和させます。

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の適応となる患者様

既存の治療薬で十分な効果が得られない患者様が対象です。
具体的には、

  • 4週間以上の内服治療を受けているが、十分な効果がなく尿失禁が改善されない
  • 2週間以上の内服治療を受けたが、副作用の為、服薬が減量あるいは中止になった

患者様が対象になります。
一日に平均8回以上の頻尿があり、3回以上の切迫性尿失禁があり、なおかつ、残尿量が100ML以下である患者さんがよい適応と考えております。
また、当院では80歳以上の患者さまの場合は、術後の尿閉や自己導尿のリスクを予測する目的で、排尿状態を術前に評価し、術後の合併症のリスクを軽減しています。

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の特徴

A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス)の有効成分はボツリヌス菌によって産生されるA型ボツリヌス毒素です。入院の必要はなく、外来で受けていただける治療法になります。

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の方法

膀胱鏡という内視鏡で尿道から膀胱の中を観察し、直接膀胱壁に針を刺して注入します。過活動膀胱では20か所、神経因性膀胱に対しては30か所に注射します。

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の効果

効果は通常、治療後2~3日であらわれ、4~8ヵ月にわたって持続します (効果の程度や持続期間には個人差があります)。国内の臨床試験の結果では、尿失禁の減少回数は6週目で3.64回の減少がみられ、完全に失禁が消失している人も27%、50%以上尿失禁が消失した患者さんは60%にみられています。また、尿意切迫感の回数も6週目で3.32回減少しています。排尿回数も6週目で1.78回減少しており、非常に効果の期待できる治療法といえます。
効果が不十分な場合、またはお薬の効果が弱まり症状が再発した場合は、前回投与より3ヶ月以上経っていれば再投与を考慮いたします。

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の副作用

  • 1)肉眼的血尿(2%程度)
    一時的に血尿がでることがあります。通常数日でおさまりますが、血尿がひどい場合には内視鏡で止血する必要があります。
  • 2)尿路感染症(5%程度)
    尿の出口から細菌が膀胱内に侵入することで膀胱炎、急性前立腺炎、急性腎盂腎炎などを生じることがあります。尿路感染により尿が濁る、頻尿、排尿時痛、発熱、悪寒、血尿などの症状が出現することがあります。
  • 3)排尿困難、残尿の増加(5~9%)
    尿を自分で全部出しきれず、膀胱内に尿が残ってしまう副作用です。投与後は残尿量を定期的に測定させていただきます。残尿量が多くなった場合は、改善するまで自己導尿(自分自身で尿道にカテーテルを挿入し、尿を排出する手技)を行っていただく可能性があります。
  • 4)薬によるアレルギー反応(1%以下)
    万が一アレルギーが出現した場合、吐き気、蕁麻疹、発疹、気分不快などの副作用が出現することがあります。重篤な場合には、喘息発作やアナフィラキシーショック(血圧低下)に至る場合があります。

治療前の注意点

以下の条件に当てはまる方は、ボツリヌス療法を受けることができません。

  • 現在尿路感染症にかかっている方
  • もともと重度の排尿障害があり、自己導尿を行っていない方
  • 全身性の筋力低下を起こす病気(重症筋無力症、ランバート・ イートン症候群、筋萎縮性側索硬化症など)がある方
  • 妊娠中あるいは授乳中の方、妊娠している可能性のある方
  • 過去にボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を受け、発疹などのアレルギー反応を生じた方
  • 副作用で自己導尿が必要になった場合に、導尿の実施に同意いただけない方

また、以下の条件に当てはまる方は、ボツリヌス療法を受ける前に医師に申し出てください。

  • ボツリヌス療法を受けた経験がある方(そのとき治療した病気の名前、治療時期、投与量をわかる範囲で教えてください)
  • 現在、なんらかのお薬を使用している方(市販薬を含む)。一部の抗菌薬や筋弛緩薬、精神安定剤など、ボツリヌス治療と同時に使用する場合は注意を要するお薬があります。また、血液をさらさらにするお薬(抗血小板薬・抗凝固薬)を服用中の方は、注射による出血を防ぐため、治療前後にお薬の飲み方を調整する場合があります。
  • 慢性的な呼吸器の病気(喘息など)がある方

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の流れ

A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス)は患者様毎に登録が必要な薬剤のため、あらかじめ施行日を決め、薬剤を準備する必要があります。特殊な処置はありませんが、当院での施行までの流れを説明いたします。

  1. Step
    1

    外来での術前検査(採血、尿検査)・説明

    外来にて感染症等の処置時に必要な検査を行います。薬剤の登録およびボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法に対する説明を行います。また、術前に内服していただくお薬を処方いたします。

  2. Step
    2

    治療当日

    1. ①早めの朝食は取って頂いて結構です。あらかじめ処方されている抗菌薬を内服しておいてください。術前に尿検査があるので、尿を我慢して来院してください。
    2. ②来院後に医師による同意確認、体調確認を行います。
      医師が問題なしと判断した後に、術衣にお着替えいただきます。
    3. ③抗菌薬の点滴を開始し、処置ベッドに移動していただきます。
      心電図計や酸素飽和度測定機器をつけさせていただきます。
    4. ④はじめに膀胱の麻酔を行います。準備が整ったところで膀胱内に内視鏡を挿入し、極細の注射針を用いて膀胱の筋肉内に20カ所、0.5MLずつ調整されたボトックス注射液を注入していきます。おおむね15分程度で注入は完了いたします。
    5. ⑤終了後は処置室に移動していただき、1~2時間程度の経過観察を行います。この間に、排尿をしていただき、血尿の具合と排尿状態に問題が無いことを確認いたします。
    6. ⑥医師の診察で問題なければ1~2W後の予約を頂きご帰宅いただきます。
  3. Step
    3

    再診時

    尿流量測定および残尿測定を行います。ここで問題なければ2~4W 毎に排尿状態や感染症の有無などを確認します。

治療後の注意点

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を受けたあとの注意点についてです。

  • 治療当日のみ、入浴や激しい運動、飲酒など、血液の流れをよくする行為は控えてください。翌日以降は、通常どおりの日常生活を送れますが、血尿が続く場合は改善するまでは控えてください。
  • 女性は治療後2回の月経が終わるまで、男性は治療後3ヵ月が経過するまで、避妊のために必要な措置をとってください。
  • ほかの医療機関や診療科を受診する際には、「過活動膀胱」に対してボツリヌス療法を受けたこと、および 治療時期をわかる範囲で医師に伝えてください。
  • ボツリヌス療法をくりかえし行った場合、きわめて稀に体内で抗体がつくられ、それまで得られていた治療効果を得られなくなることがあります。複数回の治療を受けたのち、明らかに以前より効果が弱まっていると感じられたら、その旨を医師に申し出てください。
  • 治療後に、先述の「副作用」にあてはまる症状が出現した場合は、すぐに担当医に相談してください。

難治性過活動膀胱に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は、外来でうけることができ、効果が期待できる治療法です。 術後、尿路感染症の可能性や尿閉といった副作用もみられるため、慎重にその適応を検討し、治療を受ける患者様と十分な話し合いを行った上で治療を行っております。